2023年1月1日日曜日

第3回セン俳!感想(神野紗希)

 誌面の関係上、協会機関誌「現代俳句」に掲載することができなかった「セン俳!」感想を掲載します。

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「即吟のあぶり出す作家性」  神野紗希
 第3回を迎えた大会。例年以上に作品の質が高まり、俳句甲子園では見かけない高校からの参加も増えた。5人でチームを組む必要のある俳句甲子園はハードルが高いけれど、俳句は好きで一人句作に打ち込んでいる……そんな高校生にもセン俳が創作発表・挑戦の場たり得ているなら嬉しいことだ。
優勝した洛南高校の伊藤栞奈さんは、〈天井の上には床がある残暑〉〈ほほづきが地獄に届くやうに根を〉など、俯瞰がもたらす諧謔やポエジーをよく知る作者。優勝を決めた〈地図上のX地点に居る夜長〉も、今ここを記号に変換する不思議な把握が効いていた。
準優勝の甲府南高校・齊藤健太さんは、〈楠の影くつきりと残暑かな〉〈授業終へチェロを抱うる虫の闇〉など、叙景に滲む抒情が印象的。決勝の〈蚊柱の意図なき高さ河は綺麗〉は、無為の自然に立ち尽くす心が下五の手放しの表現に表れ、深い詩情を駆り立てた。
九位の日本航空高・日下部友奏さんの社会を見つめる目にも胸打たれた。〈殺処分終えて狗尾草高し〉〈爆撃の通知を見つめたる残暑〉、席題の季語を通して社会的な問題を掘り下げる力は、ふだんの思索の深さゆえ。
〈猫じやらし垂れて下駄箱半開き 岸快晴(大垣北)〉の自然体の日常の切り取り、〈祖先はみなバクテリアとぞ秋暑し 辻颯太郎(岡山朝日)〉の壮大な命の歴史を見つめる視座、〈夜の花は人を求めず虫時雨 辻村幸多(立教池袋)〉の切岸に生きる命の感覚。準決勝で惜しくも負けたが、〈誰よりも地を踏みしめて秋の象 宇都宮駿介(松山東)〉も愛すべき句だった。みなそれぞれに生きている、その中でも誰よりも地を踏みしめているのは秋の象である……強い断定と感情移入が心を打つ。きっと作者も、少し秋の象なのだ。
即吟だからこそ、作者の大切にする世界観が、より濃く生々しくあぶり出される。私は何を書きたいか。各人の作家性をさらに育て、新たな俳句の沃野が拓かれることを願う。

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